今回書評するのは、著者:田中泰延さんの初書籍『読みたいことを、書けばいい。―人生が変わるシンプルな文章術』です。コピーライター・CMプランナーとして電通で24年勤め、その後「青年失業家」を名乗りフリーランスとして活躍している著者ですが、本書では、ライター経験でたどり着いた、タイトルの通り、読みたいことを書けばいい”という視点で文章の書き方がまとめられた一冊です。
この本から得られるものとして、
・読者としての文書術
・文章を書く上での大切なこと・調べ方
・文章の型
著者は冒頭で
本書では、「自分が読みたいものを書く」ことで「自分が楽しくなる」ということを伝えたい。いや、伝わらなくてもいい。すでにそれを書いて読む自分が楽しいのだから。
自分がおもしろくもない文章を、他人が読んでおもしろいわけがない。だから、自分が読みたいものを書く。
それが「読者としての文章術」だ。
(p.006~007)
と主張しています。
また、
この本は、そのような無益な文章術や空虚な目標に向かう生き方よりも、書くことの本来の楽しさと、ちょっとめんどくささを、あなたに知ってもらいたいという気持ちで書かれた。
そして同時に、なによりわたし自身に向けて書かれるものである。すべての文章は、自分のために書かれるものだからだ。
(p.35)
すべての文章は、自分のために書かれるもの”著者が本書で一貫して語っていることです。実際にはどのようなことか?それでは内容に入っていきましょう。
目次
なにを書くのか
ネットで読まれている文章の9割は「随筆」
著者は「随筆」を、
「事象と心象が交わるところに生まれる文章」
(p.54)
と定義しています。
事象とは、見聞きしたことや知ったこと。世の中のあらゆるモノ、コト、ヒトは「事象」である。それに触れて心が動き、書きたくなる気持ちが生まれる、それが「心象」であると。
その2つがそろってはじめて「随筆」が書かれる。人間は、事象を見聞きして、それに対して思ったこと考えたことを書きたいし、また読みたいのであるとのこと。(p.55)ネット上で読まれている文章のほとんどはこの「随筆」にあたるといいます。
詳しく説明すると、事象を中心に記述されたものは「報道」や「ルポルタージュ」、心象をメインにして記述されたものを「創作」「フィクション」、つまり小説や詩のことを指す。
事象寄りのものを書くのならば、それは「ジャーナリスト」「研究者」であり、心象寄りのものを書くのであればそれは「小説家」「詩人」であるといいます。
そのどちらでもない「随筆」という分野で文章を綴り、読者の支持を得ることで生きていくのが、いま一般に言われる「ライター」ということだそうです。
ことばを疑うことから始める
言葉の定義、意味をしっかり理解して普段使っているだろうか。一つひとつの単語の定義を忘れると、自分がいま書いているものがなんなのかわからなくなってくるとのこと。定義をしっかり持てば、自分がいま、なにを書いているかを忘れることはないといいます。
その単語に自分がはっきりと感じる重みや実体があるか。わけもわからないまま誰かが使った単語を流用していないか。
(p.65)
「幕府」という言葉を例に、当たり前に使用していた言葉の意味を理解していない経験があったとのこと。皆さんも言葉の意味を理解できているだろうか?
自分自身がその言葉の実体を理解することが重要で、そうでなければ他人意味を伝達することは不可能なのだといいます。(p.67)
どう書くのか
物書きは「調べる」が9割9分5厘6毛
ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあと99%以上が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのであるとのこと。(p.148)
調べたことを並べれば、読む人が主役になれる。
(p.148)
調べもせずに「文章とは自分の表現をする場だ」と思っている人は、ライターというフィールドでは仕事をすることができないとのことです。
調べる際には、一次資料にあたるようにすること、また、図書館を利用することを推奨しています。本を探すときは、図書館にいる本のスペシャリスト、「司書」に相談することも推奨されています。皆さんもぜひ「司書」に声をかけてみてください。
「起承転結」でいい
具体的に文章をどうやって書けばいいか、その答えを著者は、文章を書く形式は起承転結でいいとのこと。構造的には、
起:実際の経験だという前置き
承:具体的には何があったか
転:その意味はなにか。テーゼ化
結:感想と提言。ちょっとだけ
つまり、起承転結とは、
- 発見
- 帰納
- 演繹
- 詠嘆
(p.199)
とし、新聞の一面の下に載っているコラムはだいたいこのパターンだといいます。
ともかく、重要なことは、「事象に触れて論理展開し心象を述べる」という随筆に、起承転結ほど効率よく使えるコード進行はないとのことです。
なぜ書くのか
文字がそこへつれていく
文章を書いてそれを何度も積み重ねていくうちに、思いもしなかった場所に立つことになるという。書いたものを読んだだれかが、予想もしなかったどこかへ、わたしを呼び寄せてくれるようになった。知らない人からの連絡で京都駅に立ち寄り酒をおごってもらったり、大勢の前で話してくださいと呼ばれて静岡の店でハンバーグを食べたりなど。そんなとき、著者は「文字がここへ連れて来た」と思うという。
悪い言葉を発すると、悪い言葉は必ず自分を悪いところへ連れてゆく。良い言葉を発すると、良い言葉は必ず自分を良いところへ連れてゆく。わたしはそのことを知った。
(p.242)
ふだん、ただしゃべって過ごす時間は、のんべんだらりと道を歩いているようなものだと。そこから少しでも景色を変えるためには、ここではないどこかへ行くために、わたしは、辛くても、山を登るように文字を書く。登山は、道の終わりから始まるのだと(p.243)
まとめ
ライターとして生きてきた著者が行き着いた、読みたいことを、書けばいいというシンプルな答えに、ブログを書く私は鈍器で頭を殴られたような感覚に陥りました。ネットで調べたライティング術や稼げる方法など、そういうテクニックばかり追い求めていた気がしています。著者が書く文章は、うまい下手ではなく、読者を惹きつける魅力的なものに感じます。
大事なことは、自分がまず面白いかどうかですね。今後に活かしていきます。
本書の中では、途中、「書くために読むといい本」ということでおすすめ本も著者は紹介してくれています。
ぜひ手に取ってお読みください。
著者のプロフィール
著者:田中 泰延
1993年株式会社電通入社。24年間コピーライター・CMプランナーとして活動。
2016年に退職、「青年失業家」を自称しフリーランスとしてインターネット上で執筆活動を開始。映画・文学・音楽・美術・写真・就職など硬軟幅広いテーマの文章で読者の熱狂的な支持を得る。「明日のライターゼミ」講師。本書が初の著書
本の目次
はじめに
序章 なんのために書いたか
第1章 なにを書くのか
第2章 だれに書くのか
第3章 どう書くのか
第4章 なぜ書くのか
おわりに